「23分間の奇跡」
時計の針は9時2分前をさしていた。
彼女は僕に一冊の本を手渡した。
何これ?って。何かおもしろい本はないかって言うから、私のお薦めの一冊を持って来たの。読んでみてよ、すぐ読み終わるし、ほんとに20分あればいいくらい。そうねえ、うーん、ひとことで言うのは難しいけれど、「怖い話」かな。あっ、でもホラーとか怪奇小説じゃないんだけど。
怖い話は好きだけど……ホラーじゃなくて怖い? それって一体どういう……。
アルフォンス・ドーデの「最後の授業」って知ってるでしょ。フランスのアルザス・ロレーヌ地方がドイツに占領されて、フランス語の授業ができなくなるっていう。あのお話の続きっていう感じで、占領された直後の学校がこの話の舞台なの。二つの作品はまったく別のものなんだけれど、時代とか場面とか、なんとなく「最後の授業」から続いている感じなの。
それのどこが怖いのさ?
だからね、占領後に来た新しい先生が、子どもたちの心理をコントロールしていくの。その過程がね、なんていうか、こう、うまいのよね。コントロールされる側には、全然気づかれないし。でもこれって別に教室の中だけで起こることじゃないでしょ? 同じようなことが、大人に対しても、普通の社会の中でも起こり得ることなんじゃないかと思うと、なんかこうゾッとしない?
うーーん。
でも、これ以上話すと読むとこなくなっちゃうから。後は読んでみて。
それだけ言うと、彼女は本を残して立ち去った。
僕は腕時計をちらと見た。9時23分だった。
「23分間の奇跡」 The Children's Story....but not just for children
ジェームズ・クラベル著 青島幸男 訳
※ CinemaItalia に 2001/10/28 に掲載した記事の再掲です。
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